「ウォッカ屋」物語


「ウォッカ屋」物語<その4>

 もちろん仲間と行くことも多くなった。仲間の間ではそこを「KGBハウス」と呼んだ。
まるで客がみんなロシアのスパイのようであったからだ・・「ひそひそ話し」と・・・それに申し合わせたようにコートの襟を立ててテーブルに顔を埋めていたように思う。
天井からは裸電球が2つ3つ薄暗い光を放っていた。まるで映画に出てくる隠れ家のように。

 さて、つまみはというと「松の実」とカンテキに網をのせて焼いた「厚揚げ」だけであった。
壁の上の方にはあちこち雲の巣のようなシミがあり、今にも落ちてきそうな蛾が舞っていたのである。
ある日、デザイナー仲間の一人であるU君と二人で、その今にも壊れそうなドアを押し開け中に入った。
いつものようにカウンターの止まり木に座ると、何時もと変わらない1本の冷えたウオッカと2つのシングルグラスが音も無く出てきた。そこでおつまみを頼み、飲み始めたのである。どのくらい飲んだであろう、かなり酔いが回り始めた頃。一人の痩せぎすで、背の高い、見知らぬ男が側に来て肩をたたいた・・・・「もし、もし」と声をかけてきた。その口元には金歯が光っていた・・・・